
初めて老人ホームを利用されるときに注意しなければならないのが入居者さまの帰宅願望です。
それまで慣れ親しんできた自宅から突然ホテルのような環境になればだれでも戸惑います。今回は帰宅願望があるお父さまが老人ホームを退去になってしまった喜多見にお住まいのご家族さまのケースをご紹介いたします。
ショートステイの活用
80代になり急に認知症が進行してしまったお父さまはご家族さまと一緒に旅行に行くことが難しくなっていました。
お母さまも80歳に近くなってきていることもあり娘さまはこれが最後かもしれないとコロナが一時よりも騒がれなくなった時期を見計らって伊豆旅行を計画されました。
本当であればご両親と一緒に旅に行きたかったと思いますが認知症が進行してしまったお父さまと遠出することのリスクが大きいことからお父さまには施設のショートステイを利用していただいたそうです。
ところがお父さまの帰宅願望があまりに強すぎることが問題になってしまったのです。
帰宅願望
お父さまがショートステイに入った初日、家族と別れてからわずか3時間で問題は起こりました。
介護スタッフに、
「そろそろ家に帰るので準備をしたい」
と告げられたそうです。
介護スタッフはベテランぞろいですから帰宅願望に対する対処法も心得ています。
介護士「今日はもう遅いから明日帰りましょう」
介護士「明日、ご家族さまが迎えに来るので一緒に帰りましょう」
と言ってなだめていきます。
しかし、お父さまは5分おきに自宅に帰ることを主張するようになっていきました。
有料老人ホームは多くの入居者さまがおり認知症の方から自立している方まで様々です。
決められたスケジュールに沿って介護士は1分刻みで仕事をこなしています。
そのため帰宅願望が強すぎる入居者さまに介護士がかかりきる時間はほとんどありません。
お父さまが5分おきに帰るといった発言を繰り返してしまうと仕事に影響が生じます。
それでも初日はなんとかお休みいただき事なきを得たとのことでした。
しかし翌日も朝食の段階から帰宅することを強く望まれていたそうです。
そして、ご自身で施設内を歩き回り出口をさがすようになってしまったそうです。
さらに、介護士に対して強い言葉を浴びせたり、排泄介助の際に強い拒否をするなどの行動が確認されたとのことでした。
あまりに強い帰宅願望は時に施設側から退去を言われることがあります。
限られた介護士で何とかやりくりをしている老人ホームでは、帰宅願望が強すぎて激しい行動に出てしまう入居者さまや介助に影響を及ぼすような行動を繰り返す入居者さまは施設運営に影響が生じるためあずかれなくなってしまうのです。
特に介護スタッフやほかの入居者さまに対する暴言や暴力などは一発でアウトになってしまいます。
今回のケースにおいてお父さまは暴力こそありませんが暴言が確認されていました。また、排泄介助において強い拒否をされる際、介護士の手をつかんで強引に引きはがしたり、頭を叩くようなそぶりがあることも退去の理由になっていました。
ショートステイ2日目に保証人である娘さんあてに施設長から電話が入り、帰宅願望における介助の拒否行動などが報告されこのままではお預かりできないといわれてしまったそうです。
娘さんはショートステイがうまくいけばそのまま長期入居ということも考えていただけにショックだったそうです。
そして施設にお願いしようと思っても今回のように施設側からの退去になってしまうことを懸念され、当社にご相談されたのです。
帰宅願望は帰ることだけの行動ではない
ご相談を受けてまず、帰宅願望とはご自宅に帰ることだけではないということをご説明しました。
例えば、ほかのご入居者さまと打ち解けられなかったり、スタッフとのコミュニケーションが上手にできないなどでも帰宅願望につながることがあります。
また施設自体に違和感を感じている場合などでも帰宅願望という形になることがあります。
そして暴言や暴力は介護施設側からすると退去理由になってしまうこともご説明いたしました。
このまま施設をご紹介しても帰宅願望に端を発する暴言や暴力で退去になってしまうことは目に見えていたので病院の精神科にて診察を受けることをお勧めしました。
短期の入院により症状の改善が見られた際に新しい老人ホームを探すような段取りをとりました。
精神科の治療から施設への入居
ご家族さまは精神科に対して強い抵抗を持たれていましたが、現状ではどの施設にお願いしても3か月と持たずに退去になってしまうことを丁寧にご説明することで理解を得られました。
ご家族さまの合意を得たのち、病院で受診、短期間の入院が決定しました。
病院では強い帰宅願望があるためお薬による治療が行われました。2か月ほど経つとお父さま自身も入院に対する認識が生まれてきたこともあり暴言などは収まってきました。
そこで、このタイミングで老人ホームを探すことをご提案しました。
ご家族さまからの要望は以下となります。
・すぐに退去にならないこと
・月額予算は込み込みで30万円を超えないこと
・看取りをしてもらえること
・入居一時金が300万円以下であること
この条件に該当する老人ホームを探すことになりました。
なぜ介護付き有料老人ホームなのか
条件に見合った施設はすぐにみつかりました。ちなみに今回はすべて介護付き有料老人ホームで絞り込みをしています。
看取りが条件であること、帰宅願望に対して懐深く対応できる施設を考慮すると介護付き有料老人ホームで探すことが重要であると考えたためです。
ご提案した施設は5件ですがご家族さまの時間の都合、お父さまの在宅介護が限界にきていることから見学予約は3件となりました。
3件すべてを1日でまわるのは大変な作業となりますが1日自由時間を作っていただくことですべての施設をまわることが出来ました。
見学が終わった後にご家族さまとお話をしたところ娘さま、お母さま共に気に入った施設が同じであることからすぐに入居先候補の老人ホームが決定しました。
ご入居希望先の施設に連絡をしたところ、体験入居からの本入居という流れでお願いしたいとのお話をいただきました。
このようなケースもたまにあるため、施設側の意図を説明した上で体験入居が決定しました。
体験入居が終了する段階で施設側と本入居に対する打ち合わせが行われ、受け入れ可能との言質をいただきましたのでそのまま本入居の手続きを行いました。
入居から2週間が経過してご様子を確認したところ帰宅願望はありますが排泄介助の強い抵抗や暴言・暴力などは無いとのことでしたので退去の可能性が無いことが確認できました。
ご家族さまも取り急ぎ退去の不安がなくなったことでストレスが大きく緩和されたことも確認できましたので今回のケースをクローズいたしました。
弊社のご紹介ポリシー
ポリシーをこの場で書くのはどうかとも思ったのですが、最近、高齢者施設さまから転居先探しのご相談をいただくことが多くなってきたこともあり少しご説明させていただきます。
当社では以下のポリシーを持って介護相談を行っております。
・ご家族さまが納得できる施設のご提案
・ご入居者さまが納得できる施設のご提案
・介護業界の常識などをしっかりとお伝えすること
・受け入れ施設側の意図を理解すること
今回のケースで重要だったのは施設の意図を理解しそれに見合うような対応を取ることでした。
暴言、暴力といった行動はどこの施設でも退去理由になってしまいます。この点を何とかしなければ高齢者施設のご提案はできませんでした。
そのためにするべきことをしっかりとご家族さまにご説明することも介護相談室の役割だと考えています。
当然、手間暇がかかりますし介護施設で働いた経験が無ければこうした提案はできません。しかし、当社の相談員は全員、介護職の資格を持ち、介護施設で働いてきた経験を持っています。
だからこそ、こうした対応が取れるのです。
施設は限りある人材で日々の仕事をこなしています。そのため、一人のご入居者さまに多大な時間がかかってしまうと他のご入居者さまにかける時間が無くなってしまい、サービスの提供が難しくなってしまうのです。
もちろん、施設によって受け入れ可能な入居者さまは異なりますのでご入居者さまの状態に合わせてご提案しなければなりません。
たくさんの施設とお付き合いしながら関係値を作り知り得た情報をデータベースに記録するという作業が発生します。
当社は10年以上にわたりこのデータベースを更新し続けてきました。
その結果、お付き合い先の施設長さまから転居先のご相談をいただくようにもなってきました。
介護施設のご紹介は一方通行ではありません。
老人ホームを探しているご家族さまの想いと受け入れる施設側の想いが合致しなければ施設の紹介は難しいと考えています。
当社はそのポリシーを守り続けているからこそ、施設理由による退去率が1%以下という数字になっていると自負しております。