※相談事例は全てご相談者さまの了承を得て記事化しております。
姉妹の同居生活
フリーダイヤル宛てにご入居相談が入りました。
川崎市の登戸にお住いの妹さまからでした。
現在、姉妹で生活をしていますがお姉さまはアルツハイマー型認知症を発症しております。
最近になって認知症が進行しており今後を考えると老人ホームにお願いしてお姉さまの安全を保障できる環境に移したい、ということでした。
お姉さまは未婚でお子さまはいません。
定年になるまで保険会社でお勤めしており退職後しばらくはご実家のある町田で独居生活をされていました。
妹さまは数年前にご主人さまが他界されており、お子さまは海外勤務が長くなかなか会うことが出来ませんでした。
ご主人さまが他界された後は近所の友人と買い物に行くなどして楽しまれていましたが、家に誰もいないことが寂しくなりお姉さまに同居の話を持ち掛けました。
当時、お姉さまは軽度認知症(MCI)と判断されていましたが短期記憶が低下している程度で意思疎通などは問題ありませんでした。
お姉さまもご実家での一人暮らしに飽きてきており話はすぐにまとまったそうです。
町田のご実家を売却し、姉妹の生活がスタートしました。
売却益と年金でやりくりできる生活は当初とても楽しかったそうです。
しかし、お姉さまの認知症が進行してきて話が変わりました。
物忘れと失禁
お姉さまとの生活はのんびりしつつもお互い気心が知れていることもありとても気楽なものだったそうです。
お姉さまは明るく話好きであることから妹さまの友人ともすぐに仲良くなり、近場の温泉宿にみんなで旅行に行くなど老後を満喫されていました。
ところが物忘れが激しくなってきました。
財布が見つからないと家中を探し回るようになりました。
たいていの場合、財布はお姉さまの部屋の引き出しの一番上に入っていたそうです。
妹さまは年齢による記憶の低下だと思っていました。
お姉さまも感情的になるなどの変化はなく、財布が見つかると陽気に買い物に出かけられていました。
しかしある夜、妹さまがトイレに行くとトイレの床が濡れていることに気づきました。
ニオイなどからそれが水ではなく排泄の跡であることが分かりました。
その場は綺麗にふき取りをして済ませましたがお姉さまに失禁の事を確認するも覚えていません。
年齢も年齢なのでそのようなこともあると思っていたそうなのですが失禁が頻回するようになってきました。
ある時お姉さまのお部屋に入ると濡れた布パンツが床に落ちていたそうです。
お姉さまにそのことを質問するとお姉さまはパンツは履いているし失禁した覚えはないと言われました。
お姉さまに認知症診断を受けてほしいとお願いするもお姉さまは自分はボケていないので大丈夫だ、の一点張りで診断を拒否していました。
同じことを繰り返し言うようになってきた
お姉さまはご自身に病識は無く健康だと主張しますが、妹さまは認知症が進行しているのではないかと疑いを持っています。
ある時、友人から妹さまに電話が掛かりお姉さまがいつまで経っても家に来ないと言われました。
お姉さまは友人と衣類の買い物に行く約束をしているということでした。
妹さまがお姉さまの部屋に入り、そのことを質問するとお姉さまはそんな約束はした覚えがない、と記憶にありません。
記憶がなくなってしまうことに不安を覚えた妹さまはお姉さまに認知症診断を受けてほしいと再度お願いをしました。
丁寧に何度もお願いをするとお姉さまも渋々認知症診断を受けることを承諾したそうです。
診断結果はアルツハイマー型認知症を発症しておりました。
お姉さまにそのことを伝えるととてもショックを受けていましたが、次の日には忘れてしまっていたそうです。
お姉さまの認知症が進行していることを知った妹さまは注意深くお姉さまと接するようになりました。
すると今まで気づかなかったことに気づかれたそうです。
お姉さまが食事を忘れてしまっていること、時間の感覚がおかしくなっていることが分かったそうです。
夕食の案内でお姉さまのお部屋に行くとカーテンが閉められておりお姉さまが眠っていたそうです。
起こして夕食の事を伝えると、夕食はさっき食べたばかりだから要らないと言われたそうです。
そうかと思えば朝食を食べていないから早く作ってほしいと言われることもありました。
しかし実際には15分ほど前に朝食を召し上がっており楽しそうに話をされていました。
妹さまとしてはこのままお姉さまの認知症が進行することで介護が必要になることに不安を持っていました。
お子さまは海外勤務でしばらく日本に戻ってくる予定はなく、親族もいないことからお姉さまの認知症が進行すると介護するのはご自身しかいません。
ただ、妹さまとしてはやっとこの年になって自由な生活が出来るようになったのに在宅介護になってしまうのは避けたいという想いがありました。
子育てで好きだった会社を辞め専業主婦として何十年も頑張ってきました。
後年は亡くなるまでご主人さまの介護も行ってきました。
それだけに在宅介護の辛さは身に染みて知っていました。
付きっ切りの介護になってしまったらやっと手にした自由も楽しむことが出来なくなってしまいます。
せめて最期を迎える時くらいは自分の好きなことを楽しみたいと思われていました。
妹さまは今後のことを考えてお姉さまを老人ホームにお願いしたいと考えておられました。
デイサービスの拒否とその理由
妹さまからご相談を頂きデイサービスを使うことをご提案しました。
これまでお姉さまはデイサービスを使ったことがありませんでしたし妹さまもデイサービスの利用経験はありませんでした。
しかし、妹さまはデイサービスについて否定的でした。
結局のところ認知症が進行してしまったら在宅介護をしなければならないと思われていました。
問題の先延ばしをするのは避けたいので入居先の老人ホームを探してほしいとのご依頼を頂きました。
そこでお姉さまに合っていると思われる施設を探すため諸条件を頂きました。
◆必須条件
・一時入居金:200万円
・月額利用料:25万円
・看取り対応
・転居しないこと
◆充分条件
・公共交通機関を使って1時間以内の場所
ADLの低下などにより転居が必要になるようなことは避けたいというのが一番の理由でした。
ナースが24時間常駐している介護付き有料老人ホームを希望していましたが現段階でその必要性が無いことをご説明いたしました。
また、費用的にご予算をかなりオーバーしてしまうこともご説明いたしました。
大手の老人ホームではADLの低下に併せて、対応可能な運営施設に転居するなどの対応が出来ます。
今回はそれが好ましいと考えました。
妹さまもご納得いただけました。
早速、施設探しに取り掛かりました。
登戸は川崎市ですが世田谷区にも近い立地です。
世田谷区は都内23区内で老人ホームが一番多く存在するエリアです。
大手各社も一駅一施設といったレベルで施設建設している場所です。
公共交通機関を使って1時間以内であれば必須条件内となります。
あとは料金です。
世田谷区の老人ホームは高値設定が多いのが特徴でもあります。
しかし現在では大手各社がひしめき合っているため料金形態にも幅が出てきています。
さらに施設過多状態にもなってきているため入居率が低い施設などはキャンペーンを強化するなどして入居率を高めるような動きもあります。
丁寧に施設を選別することで施設選びが出来ました。
川崎市、横浜市、世田谷区、目黒区が今回の対象エリアとなりました。
登戸でショートステイから本入居へ
施設リストを持って妹さまにご提案を行いました。
すると、5つの施設について見学依頼を頂くことが出来ました。
1日ですべてを回ることはできませんでしたので2回に分けて施設を回ります。
※妹さまから施設詳細については記事にしないでほしいという意向を頂いておりますので見学での感想や施設詳細については割愛いたします。
最終的に2施設が候補になりました。
どちらの施設にも決められないということでしたのでショートステイを使うことをご提案しました。
妹さまからのご了承を経て、2施設それぞれでショートステイの予約を取りました。
お姉さまは旅行気分でショートステイを楽しまれていました。
1つ目の施設でショートステイが始まりました。
最初こそ楽しまれていたお姉さまですが3日もすると妹さまに電話がかかり始めたそうです。
お姉さまは自由に外出できないことにたいそう不満を持たれていました。
補足ですが老人ホームは基本的に外出、外泊は自由です。
しかし、認知症を発症している場合はご本人さまだけでの外出はNGになる場合があります。
それは施設として安全が担保できないからです。
そのことはショートステイのご説明をする際、妹さまには説明を行っており妹さまも納得されていました。
ただ、お姉さまとしては納得がいかないご様子だったそうです。
もう飽きたから家に帰りたい、と頻繁に電話されるようになっていました。
1週間のショートステイが終了し帰宅日になり妹さまがお迎えに行くと、お姉さまは二度とここには来たくない、と言われたそうです。
次のショートステイは2週間後でした。
次のショートステイ入居日になり妹さまは不安だったそうです。
しかし、お姉さまは以前のショートステイの事を忘れており今回も旅行気分で楽しみにされていました。
ショートステイが始まると2日目で妹さまの電話が鳴ったそうです。
前回同様、1週間のショートステイで何度電話が鳴るか不安になられたそうです。
ところが今回のショートステイは少し状況が異なっていました。
お姉さまからの電話の内容が少し変わっていたのです。
前回のショートステイでは早く迎えに来てほしい、帰りたいという言葉ばかりでしたが今回は異なっていたそうです。
面白い友達が出来たから遊びに来ないか、と言われたそうです。
妹さまは驚いたそうです。
ショートステイ中に一度、面会に行かれるとお姉さまはご機嫌だったそうです。
そして、次回来るときにはお酒を持ってきてほしいと言われたそうです。
お姉さまは身体的にアルコールNGではありませんので酒類の持ち込みは制限されていません。
施設長に相談すると、他の入居者にアルコールを提供するのはNGですがご自身が飲まれる分には問題ありません、と酒類の持ち込みの了承を得ることが出来ました。
1週間のショートステイが無事に終了し帰宅されたお姉さまは以前と変わらないご様子だったそうです。
妹さま曰く、排泄ミスをしていてトイレが汚れていることがあったり、時間の概念がおかしいと感じる時があったそうです。
2回のショートステイを終えた後、本入居についてどうされるかについて確認を行いました。
すると、2つ目の施設がお姉さまに合っていると感じたのでそちらの施設で受入れてもらえるならば本入居契約をしたいと仰りました。
施設長に確認をすると、暴言暴力も確認できず、目だった帰宅願望もなかったということで受入については問題ナシとのお言葉を頂きました。
妹さまにお伝えして本入居契約に取り掛かりました。
2つの施設で何が違っていたのか
契約関連が全て完了し入居日となりました。
お姉さまは前回の施設が楽しかったことを覚えていたようでした。
施設に到着するととても喜ばれていたそうです。
施設長や介護職員が出迎えに来ていました。
お姉さまの居室は前回、ショートステイで泊ったお部屋でした。
今回の件では入居相談員として興味がありましたので施設長に少しお話を伺いました。
ある程度自立しているご入居者さまの場合、ご入居後に強い帰宅願望が出ることがあります。
今回もその点は考慮していました。
しかし、お姉さまに関してそれほど強い帰宅願望が出なかったが不思議でした。
施設長からショートステイ中のお話を少し頂くことが出来ました。
全てを書かないでほしいと言われていますので当社の解釈として記載します。
この施設では認知症のご入居者さまに対してバリデーションとグルーピングを重視していました。
介護の世界でいうバリデーションとは認知症に限らずコミュニケーション手法として使われます。
※本来の意味は「検証、実証」という英語で他業種でもよく使われる言葉です。
バリデーションは以下の5つの基本態度を使って認知症の方と接します。
認知症で見られる特有の行動(帰宅願望など)や暴言、暴力、ストレスや不安(BPSD)を抑える効果があります。
・傾聴する
>かんたんにいえば人の話を聞くことです。相手の話す内容を聴くことでその人の気持ちを推し量ることです。
・共感する
>主に同調することですが相手の表情や仕草を見て相手に合わせることです。
認知症の場合、言葉によるコミュニケーションが難しくなるため表情や仕草を注意深く確認することが大切です。
・誘導しない
>相手のペースに合わせることです。「〇〇するよ」、「早く食べて」、「もう寝るよ」といったこちらのペースに相手を合わせようとしないことです。
・受容する
>認知症の方に現実を突きつけたり、間違っていることを否定するなどせずに世界観を共有することです。例)「認知症だから一人で外出はできないです」
・ウソをつかない(ごまかさない)
>帰宅願望などでは場当たり的な対応をすることがあります。帰りたいという認知症の方に、「明日帰るでしょ」とウソをつくことでその場を乗り切る介護士もいますが信頼関係を構築する上ではマイナスに作用します。
※ごまかさないとウソをつかないは別々に定義されるのが一般的ですが、当記事ではわかりやすくまとめています。
グルーピングは同じようなご入居者さまをグループ化することです。
お姉さまと同じような認知症レベルの方と同じ食席にご案内したり、レクリエーションではお姉さまと同じグループに属す方をお隣に誘導するなどして会話率をアップさせます。
この施設ではバリデーションとグルーピングがとても有効に作用していたのです。
理論を実践域にまで組織的に活用できていることは素晴らしいことです。
お姉さまが、面白いお友達ができたというのはグルーピングが上手に機能していることの表れであり、施設に遊びに来ないか、と言われたのはバリデーションが上手く機能した結果、施設全体に対してストレスが軽減されていることの証明となります。
お姉さまが強い帰宅願望もなく施設を受入れた背景には、最新の介護理論を実践域にまで高めた企業のたゆまぬ努力があったと判断しました。
ご入居後1か月ほどして妹さまにご様子伺いのお電話をいたしました。
お姉さまはショートステイの時と同様に施設を楽しまれているということでした。
排泄の失敗が顕著化してきたためリハビリパンツとパッドに移行したいという居室担当者からの提案が来ましたが、それ以外は何も問題はないそうです。
お姉さまが無事に施設に慣れてきたことが分かりましたので今回の件をクローズとしました。
当社では元介護士が入居相談員として皆さまからのご相談に対応しております。
今回のバリデーションなどは在宅介護においても効果をもたらします。
介護する側にも大きなメリットがあります。
ご入居先を探すことだけではなく、介護業界で知り得た知識や経験などを常に更新しながらご入居相談を行っております。
詳しくは以下無料相談フォームまたはLINE公式窓口からご相談ください。
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