
自宅介護(在宅介護)に関するご相談は本当に多いです。介護の難しさが如実に表れてしまい理想と現実がこれほどまでに乖離してしまうものなのかと実感しています。
今回は世田谷区は奥沢にお住いのご家族さまからのお問合せについて相談事例を交えながら介護の難しさについてご説明いたします。
義母と同居した背景
旦那さんのお義母さまが実家で骨折したことがきっかけとのことでした。
お義母さまは早くしてお子さまを生まれていたので年齢は80代前半で、まだまだ元気という認識があったということでした。
ある日、実家のお義母さまが洗濯物を干すため二階のバルコニーに上がられ、洗濯物を干したのち、階段を降りる際、階段を踏み外して骨折してしまいました。
その時はご自身で救急車を呼び、事なきを得たのですが旦那さんがそのことを心配され、今後のことを考えると一緒に暮らしたほうが良いのではないか、と相談されました。
ご相談者さまもそのことに対して同意され、ほどなくして同居することとなりました。
それが3年ほど前ということでした。
奥沢での在宅介護が嫁姑問題に発展
同居当初、お義母さまは同居に対してすごく喜んでおり、いろいろと気を使っていることもあり家族間はとても仲が良い状態でした。
半年ほどするとお義母さまも同居に慣れてきたのか家事をするなどしてご相談者さまも家事作業が減って喜んでいました。
ほどなくしてコロナが蔓延したことにより、ご相談者さまの仕事がテレワークとなり自宅での作業がメインとなったことで、少しづつ関係がおかしくなってきてしまいました。
24時間ほぼ一緒にいることで無意識下において落ち着かない高ストレス状態が発症します。
すると細かいことが気になり始めてしまったのです。
例えば、洗濯についてご相談者さまは衣類を細かく分類しシワや色付きにならないように複数回に分けて洗濯をしていました。
ところがお義母さまはそのような配慮が無く、すべて一緒に洗ってしまうため、気になり何度か注意をしたのですがその都度、わかった、と理解はしてくれるのですが一向に直らないのです。
そこで少し強めに発言をしたところその夜になり、旦那さんから、
「おふくろも高齢だからそんなにキツク当たらないでほしい」
と、言われてしまいました。
告げ口とは思わずも、そんなにキツく言ったつもりもなかったので驚きが隠せなかったそうです。
そのことをきっかけに何かあるとその日のうちに旦那さんに相談をするようになってしまう事態に、ご相談さまは疲れを感じるようになっていました。
以前、同居するにあたり介護福祉士から、認知もなく、元気であるならばできるだけご本人さんに任せなさい、とアドバイスをもらったことから、身の回りの世話などはせず、自分の意思に任せるようにしていました。
特に問題もなかったのでそれが一番と安心していたのですがある日の夜、また旦那さんから、
「おふくろが何も支えてくれないと嘆いているがそうなのか?」
と、訊いてきました。そこで、先の介護福祉士の話をしたところ、
「それは理解できるがおふくろも高齢になってきているし、見れる面倒は見てもらえないか」
と、やんわりと介護について指摘を受けました。
次の日の昼食時、お義母さまとご相談者さまがお二人の場であったこともありご相談者さまが質問をしました。
「何か手伝えることはありませんか?」
すると、お義母さまは、
「その気持ちだけで十分です」
と、その時はそれだけの話で終わりました。しかし、その夜になり旦那さんから、
「おふくろから味付けが全体的に濃すぎるので薄くしてもらいたい。健康を考えてもそのほうがよい、と言ってるんだけどどうなんだろうか」
と言われ、驚くと共に少し議論に発展しました。
「今日の昼食時に何か手伝えることはないか?と尋ねたときにはそんなことは何一つ言っていませんでした。味付けだってお身体を考えて以前よりも薄めにしているし、アナタはこれ以上薄味でもよいのですか?」
すると、旦那さんは、
「いや、これ以上薄いのはちょっと味気ないかな。それならいっそのことおふくろだけ別料理にするとかできないか?」
と言われたので、
「私も仕事している中で家事を両立させているんです。そこまで言うのであればワタミの宅食などケータリングを頼むなり介護のプロに任せるべきではないですか?」
というと、
「いや、それは少しかわいそうだろ。一緒に食事する時だって多いのにおふくろだけ出来合いの食事にしろというのか?」
と譲りません。そこで、1週間だけということでお義母さま専用の食事を作ることにしました。
お義母さまも食事には大変満足されていたので仕事とのバランスは難しいですが、自分がなんとか頑張ればうまく収まるだろうと思っていました。
しかし、また別の問題が発生してしまったのです。
それまで洗濯や食器洗いなどを行ってくれていたお義母さまが、洗濯と食器洗いがしんどいので止めたいと旦那さんを通して伝えてきたのです。そして同時に、食事については和食限定にしてほしい、買い物をお願いしたい時は緊急だからすぐに買い物に行ってほしいと言い出したのです。
さすがに旦那さんもすべてを言うのはためらったのか数日に分けて話し合いをしたのですが、そこでご相談者さまの限界が来てしまいました。
「介護福祉士の方からは介護の必要性が無いのであれば自主性に任せるべきであるし、それが介護の基本だと教えてもらいました。今だってお義母さまはどこも悪くないし自分で歩けますし排泄も何もトラブルがありません。いまいわれていることはワガママではないですか?」
旦那さんも同意できる点があるとして今度はお義母さまにその旨を伝えました。
すると、お義母さまも理解されたようでした。
しかし1週間後にお義母さまとご夫婦で食事をされている際、
「私は眠りが浅いのでできれば夜9時以降にお風呂に入ったりバタバタと階段を上り下りするのはやめてほしい」
と言われてしまいました。
この時、旦那さんも行き過ぎであると感じたのか、お義母さまに対して、
「こちらも生活があるんですから、合わせる努力をしてください」
と、たしなめるような発言をしてくれたのでご相談者さまとしては安心していました。
しかしこの状態が続いてしまうと仕事にも影響が出てしまうということでご夫婦で悩まれていました。
そんな時に無料相談をいただいたのです。
ご家族間の深刻な問題を考える
ご相談をいただき私は自宅介護に関する問題点の洗い出しを優先的に考慮しヒアリングを行いました。
すると前述の過去が明らかになってきました。
そこで介護とは老人の面倒を24時間看ることではなく、自立選択・自己選択を支援するための行為が介護であることを伝えました。
これは介護福祉士であるならば誰しもが最初に教わることです。
私も資格の勉強をしている時から実際に介護現場で働くまで通してその見解を重視しています。
ただ、介護の知識が無い方やはじめて介護を経験される方においては介護の意味を間違ってしまう場合があります。
そのことをしっかりとお伝えすることから始めました。
同時に介護しているご相談者さまが精神的なストレスを過度に抱えていることがわかりましたので、カウンセリングを行うことをご提案しました。
カウンセリングとは何かを指示することではありません。
カウンセラーが相談者の話を聞くことで相談者が無意識のうちに何かを理解することを促進するのが役割です。
モヤモヤとした感情がストレスを生む原因となります。
原因がはっきりしないため心のバランスが崩れてしまい喜怒哀楽が顕著化してしまうのです。
カウンセリングを重ねるうちにご相談者さまの中で一つの結論が出てきました。
このままお義母さまがワガママになってしまうことを考えれば、施設で自立した生活を送ることが最善ではないか、と考えられたのです。
この意見は旦那さんとご相談者さまがご一緒の時に私もうかがうことが出来ました。
旦那さんもこの意見に同意していたため、施設への入居という選択肢についてご提案差し上げました。
ご夫婦は、老人ホームとは看護師または介護福祉士が付き添いで24時間介護する施設だと思っておられたので補足説明を行いました。
施設には様々な種類があり要介護レベルなどによりいくつかの種類があります。
もちろんテレビなどでみられるような24時間介護の施設もありますが、自立している高齢者の方が集まり自己選択・自己決定の基本を踏襲し、生活する高齢者施設もあるのです。
今回、お義母さまともお話させていただく機会がありましたが、意識もはっきりとしており歩行も問題なく、認知症も発症しておりませんでした。
そこで要介護施設ではなく自立している高齢者が生活する施設への入居をご提案しました。
ご夫婦から、できるだけ自宅から近い場所というご希望がございましたので公共機関で30分圏内での施設探しをはじめました。
残念ながら30分圏内で入居可能な施設を見つけることはできなかったのですが45分圏内で見つけることが出来ましたのでご提案いたしました。
高齢者施設の見学から入居
詳細をご説明し見学の日程を取り当日はご夫婦とお義母さま、そして相談員の4名で施設に見学に参りました。
ご家族皆さまが気に入っていただけましたので面談に入り施設側も問題ナシとの判断から入居が決定しました。
当初はさみしがっていたお義母さまも入居日が決定するとその日を楽しみにするようになってきたとの報告をいただき一安心しました。
高齢者施設へのご入居から2か月が経過して
入居してから2か月ほどしてご相談者さまより丁寧なお手紙をいただきました。
入居してから心配で週1回ほど様子を見に行っていたのですが、すぐにお友達もできて楽しそうにしているお義母さまを見て安心されたそうです。
こちらから連絡しない限りあちらから連絡がこないんですよ。本当にゲンキンなものですよね。
というお言葉には嬉しさが混じっているように思えました。
相談員をしていると辛い時もありますし、考えることも多いですがこうしたお話をいただくと自分の仕事に対して自信がわいてきます。
何よりも手書きのお手紙をいただけたことが本当にうれしく、励みにもなりました。