※相談事例は全てご相談者さまの了承を得て記事化しております。
老健から在宅介護へ
親の最後は自宅で看取りたい、と思うのはご家族さまであれば誰しもが思うのではないでしょうか。
今回もそのケースでした。しかし、ご家族さまは最終的に施設へのご入居を決断されました、なぜでしょうか。
神奈川県もご相談が増えてきているエリアとなります。特に多くなっているのが藤沢市、横浜市は青葉区や鶴見区、西区などとなります。
お父さまは75歳で仕事を辞められてから神奈川県は藤沢市のご自宅でお母さまと2人のんびりと年金生活を楽しんでおられました。
しかしお父さまが83歳の時、お母さまが老衰で亡くなられてから元気がなくなってしまったそうです。
ご家族さまはそのことを何よりも心配されていました。
ご家族さまは長男、長女、次男、三男の4人兄弟であり、皆さまご実家から近いため交代で様子を見に行っておられました。
そんな折、お父さまが脳梗塞を発症してしまい左半身に少し後遺症が残るようになってしまいました。
軽度であったため日常生活に大きな支障はなかったのですがある日の買い物の際、転倒してしまい左大腿骨頸部を骨折してしまったそうです。
2か月病院で入院、治療をおこなった後、老健に移りリハビリに励んでいました。
3か月が経過しリハビリの効果も上がり、ご家族さまはもう少し老健での生活をお願いしたいと思っていたのですがケアマネジャーさんから、そろそろ在宅介護に切り替えてはいかがですか?と言われたため在宅介護に切り替えました。
※老健:老人健康保険施設の略称。リハビリ目的の中期入所施設。明確な期限があるわけではないが3か月、長くても6か月で退所するのが一般的。
順調だった在宅介護に落ちた影
ご家族さまはリハビリも成功し、これまで通りの日常が戻ると思われていたそうですが、実際にお父さまが実家に戻ると、想像していた生活と変わってしまったことに気づかれたそうです。
左片まひがあるお父さまは衣服を着たり、食事の際に少し不自由が出るようになっていました。
そこでご兄弟持ち回りでお父さまの介護をすることになりました。
介護内容は主に食事の世話、衣服の脱着そして入浴の補助です。
在宅介護の当初、話好きなお父さまは息子、娘さんが代わりばんこに自宅に来られることをとても喜ばれていました。
ただ、衣服を着たり脱いだりすることに不便を感じたり、入浴に補助が必要であることなどから半年もすると外出しなくなってしまいました。
(のちになって分かったことですが、お父さまは外出の際に転倒して骨折してしまったことを恐れ、外出恐怖症になっていました。)
それまでは散歩に行くことを楽しみにしていたお父さまですが、家で一日中テレビを見ることが多くなっていました。
外出しなくなると、口数も少なくなり時折、攻撃的な発言や突然怒り出すなど過分に感情的になることが多くなってきたのです。
ご兄弟はお父さまの様子が以前と異なってきていることに嫌な予感を覚え、包括支援センターに相談をしました。
ケアマネジャーから認知症の可能性があることを指摘されたことから病院で診断したところ認知症を発症していることがわかりました。
ただ、軽度であることからほっと安堵したとのことでした。
しかし、お父さまの態度が目に見えておかしくなってきてしまったのです。
食事の際、気にいらない料理や自分が食べたくない献立だと烈火のごとく怒るようになりました。
それまでは小言程度だったのが、大声で叫んだり、時には手を挙げるようになってしまったのです。
時には鏡に映ったご自身に対して何かを話しかけていることもあったそうです。
また着替えについてもできないことにイライラを募らせ感情的になってしまい、暴力的になったことも問題でした。
大柄ではありませんが、男性が大声をだしたり、手足を振り回すようなことが多くなってしまうと女性は恐怖心で委縮してしまいます。
これ以上は怖くて面倒を看ることが出来ない、とご兄弟の皆さまが悩まれたそうです。
ケアマネジャーからのご紹介
私がこのご家族さまとお会いしたのは在宅介護でお父さまの認知症が進んでからでした。
ご家族さまを代表して三男さまが神奈川県の包括支援センターに認知症、在宅介護のご相談をされた時のケアマネジャーさんからご連絡をいただきました。
認知症の進行が早く在宅介護の限界が来ているかもしれないので施設入居についての相談にのってもらえないか、とのことでした。
早速、三男さまとご連絡を取り、お仕事終わりの時間に職場近くの喫茶店でお話を伺うことになりました。
三男さまからお父さまの状況をお伺いし認知症の進行度合いがかなり早いことがわかりました。
施設のご提案をする前にご家族さまのお気持ちを伺うことはコーディネーターとして基本中の基本です。
そこで、ご兄弟さまはどのようにされたいのか伺うと、長年住んできたご実家でお父さまの最後を看取りたいと思ってはいるが、このまま認知症が進行してしまうと在宅で頑張れる自信がない、とのことでした。
実際に介護を行っている奥さまやご兄弟の奥さまも認知症と理解はしているが、これ以上の介護は難しいと異口同音でお話されているとのことでした。
ご紹介をいただいたケアマネさんから施設入居のお話をいただいてはいましたが、施設に入居するということは生活に大きな変化をもたらします。
そこで私は、ご兄弟さまがお父さまを施設に入居させることに同意されているか再度、確認することから始めました。
ご兄弟さまの1人でも入居に反対するケースで入居を推し進めてしまうと、入居後にトラブルになってしまう可能性があることをこれまでの経験で十分すぎるほど、理解していたからです。
1週間ほどして三男さまから改め面談希望のご連絡をいただき、ご自宅でお話を伺うことになりました。
三男さまと奥さまを交えてご兄弟全員の意思を確認することが出来ました。
ご兄弟は皆さま、在宅介護を続けたいとは思いつつもこれ以上、認知症が進行してしまったら満足に介護することもできず、却ってお父さまの満足度や自立心を損ねてしまう可能性があることを懸念されておりました。
結果として施設への入居がベストな選択肢であると全員一致で思われていることが確認できました。
必須と充分条件の切り分け
施設への入居を希望されていることから施設選びにおける条件の洗い出しに取り掛かりました。
これまでにブログで何度も書いてきましたが適切な施設選びを行うためには条件の洗い出しが必要となります。
ご家族さまからは以下のような条件が提示されました。
・施設はご兄弟の家から1時間圏内であること
・月額費用が25万円以内であること
・24時間看護であること
・若い介護スタッフが多い施設であること
私はまず条件に重要性を持たせるようにしました。重要性とは必須か充分かということです。
必須とは絶対に譲歩できない条件になります。
充分とは、あれば良いが無くても何とかなる、と妥協できる条件になります。
今回での切り分けは以下になりました。
◆必須条件◆
・施設はご兄弟の家から1時間圏内であること
・月額費用が25万円以内であること
◆充分条件◆
・24時間看護であること
・若い介護スタッフが多い施設であること
施設の立地が必須である理由は、ご兄弟さまが頻繁に面会を行いお父さまとコミュニケーションを取りたい、との考えがあるからでした。そのため、通える場所に施設があることはとても大切なことでした。
電車やバスなど公共機関で最長1時間という条件に絞り込みました。
次に費用面において25万円であることが条件として提示されました。
費用はどうにもならない条件の1つになりますので基本的に費用が充分条件になることはありません。
今回のケースではお父さまの年金が13万円、ご家族さまの支出が各家庭で3万円/月の設定となります。
当初、皆さま5万円/月までならば支出できると言われておりましたが状況の変化に対応するためには限界ギリギリの支出は危険であることをご説明し、ゆとりある額として3万円/月としてご提案いたしました。
24時間看護は確かに素晴らしいですが費用から考えると難しい点、お父さまの現状では24時間看護はまだ必要ないと判断できたため、充分条件といたしました。
若い介護スタッフが多い施設というのは、若く力がある介護スタッフが多ければ、何かあっても対応できるだろう、というご兄弟さまのご判断でした。
確かに若いスタッフは力がみなぎっておりますが現在の介護現場では「力」はそれほど重要視されません。
20年前であれば介護=力の図式はあったかもしれません。
しかし現在の介護現場ではボディメカニクスを活用した介護が一般的となっています。 ボディメカニクスとは力任せではなく、介護スタッフが行う各作業に対し、適切な身体の使い方をすることで介護士にとって負担にならない作業を行うための理論です。
力任せに腕の筋肉に頼るのではなく重心の移動、体幹を使った作業を行うことで力が無くても介護することが出来るのです。
現在の介護現場における介護スタッフの働き方をご説明し、「若さ」も充分条件といたしました。
高齢者施設を選ぶ時のポイント
立地条件でご家族さま皆さんのご自宅から1時間圏内ということが長考材料になるかと思いましたが、調べてみるとみなさん同じ地域にお住まいでしたので考慮すべき点は最寄り駅だけでした。
1時間圏内ということですがコミュニケーションを重視されていたのでまず30分圏内で探してみました。
すると、2件ほど見つかりました。
そして、1時間圏内に広げてみるとさらに3件の施設が見つかりました。
費用は21万円から27万円となりました。
25万円を超えておりますが施設の内容がとても良いことや十分にゆとりを持たせた予算設定であるため、内容によって少しアシが出たとしても施設がご兄弟さまのニーズに合っていれば提案すべきとの判断から、ご提案いたしました。
ご兄弟さまで確認をし5件の中から3件の施設に見学依頼を出すことになりました。
すぐに見学依頼確認書を作成し施設にご連絡をいたしました。少し駆け足になってしまいましたが1週間で3件の施設を全て見て回りました。
3施設の中から最終的に2つの施設が候補となりました。
最終的な二択の場合、相談員として、どちらにすべき、という話をすることはありません。
発言には必ず責任が伴います。物事を決定することが出来るのはそれを利用する方だけなのです。
ただ迷われている時にアドバイスを行うことはあります。
例えば、働いているスタッフさんとのコミュニケーションなどです。
ご兄弟さまは皆さまお父さまと血がつながっています。
そのご子息さまと気が合う介護スタッフさんというのはたいていの場合において、ご利用者さまとも気が合うものです。
相談員としての経験です。
そして、本能的な直感は大事にするようにアドバイスしています。
直感というのは理論ではありません。
スタッフさんのレベル、料金、利用者数、などすべてが同じ条件(こんなことはまずありませんが例えとして)である場合、直感はとても大切になります。
入居した後に何かあった場合、
「だからなんとなくあっちの施設のほうが良いと思ってたんだよ!」
と、いうことにつながります。
人間は感情の動物でもあります。
すべて理論的にまとめることはできません。
自己責任として何かあっても納得できるためには理論でも言葉でもなく直感が大切であることをご説明しています。
藤沢の老人ホームへご入居、その後
3日ほどしてご入居希望の施設を選ばれたとのご連絡をいただきました。
すぐに当該施設長さまにご連絡をしたところ、先方もご入居に対してとても前向きにご対応していただきトントン拍子にご入居日が決定いたしました。
入居当日はかなりナーバスになっていたお父さまですが、2週間ほどするとスタッフさんや利用者さんとコミュニケーションが取れ始めたためか従来の明るさを取り戻してきたそうです。
骨折してから外出を嫌っていたお父さまですが、同時に他人とのコミュニケーションもなくなってしまったことがお父さまの生活を暗いものにしていました。
しかしコミュニケーションを気軽に取れる環境になったことでお父さまの中に生きることの楽しさが生まれてきたのだと思います。
老人ホームに対して否定的な意見を言われる方がいらっしゃることは存じ上げております。
日本では基本的に介護は家族がするもの、という風習があるからです。
しかし、少しだけ考えてみてください。
介護とは高齢者の身の回りの世話をする「お手伝い」ではありません。
当事者である高齢者さんが社会で自立するために行う最低限のサポートなのです。
自立とは決して身体的なことだけではありません。心が前向きになることもまた、自立なのです。
老人ホームとは高齢者の自立を助けるための専門家が揃っている施設なのです。
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