
今回のケースはこの10年くらいで増えてきていると言える事例でもあります。高齢化というのは時に逆転現象を生み出してしまうこともあります。
世田谷区は用賀にお住いの女性からのお問合せになりました。当サイトをyahooの検索で知ったということから、もはやインターネットは年代に関係なく浸透していると感じました。
いつもと変わらずに仕事に行っていた息子が
勤続15年になる今の会社で管理職を務めるA氏。
1年くらい前から仕事でのミスが目立つようになった。
予定を忘れてすっぽかしてしまったり、得意先への折り返しの電話を忘れ失注することもしばしば起きた。
本人はいたって普通に過ごしていたが、仕事のミスが増え、取引先からもクレームが入るようになったことで同僚や上司も異変に気づき、産業医への面談を勧めたそうです。
若年性認知症を発症した息子
産業医からの勧めで病院を受診したA氏ですが思いもよらない病名を告げられてしまいました。
病名は若年性認知症でした。
しばらくは同僚や上司の助けを借りて仕事を続けていましたが病状は思ったよりも残酷でした。
ご本人さまは仕事を続けたい気持ちが強かったのですが、ある理由により56歳になった時に退職をしました。
退職の理由は、通勤途中に迷子になってしまい、会社へ行くこと自体が困難になってしまったからでした。
退職後は自治体の支援事業を活用しながら、ご両親の支援のもと暮らしていましたが、お父さまが他界され、お母さまと2人の生活がはじまりました。
お母さまも元気ではありましたが近頃では足腰の痛みが出てきて要支援2の判定を受けていました。
A氏は介護保険サービスとしてのデイサービスやデイケアの利用を頑なに拒否しておりましたが、お母さまの1週間の検査入院をきっかけに介護保険サービスを使い始めることに同意したそうです。
最初こそ行くのを嫌がっていましたが、デイサービスのスタッフさんとも仲がよくなり、馬の合う利用者さまもいたため楽しく通えるようになっていました。
80歳を超えて体力や自分の健康に自信がなくなってきていたお母さまは、先のことに不安を感じるようになっていた為、地域包括支援センターに相談されました。
地域包括支援センターの担当者さまからお母さまの話を聞いて欲しいという依頼が来たのはちょうどそのころでした。
できることはすべてやっておく
早速、80代のお母さまに連絡をして訪問の日時を決めました。
カウンセリングは来談者中心療法を基本として行なっていくことにしました。
まずは話したいこと、不安に思っていることを自分のペースで話してもらうようにしました。
そこから見えてきたものを整理し、ご自身の描いているゴールを導き出し設定することが今回の目的となります。
※来談者中心療法とは: 心理カウンセリングの一種で、非指示的療法とも呼ばれる。 傾聴を重視し、カウンセラーは「聞き役」に徹すること。
お母さまとしては、自分が生きているうちは良いが、自分が死んだ後のA氏についてどうしたらよいのかわからないため、A氏が独りになったときの準備をしておきたいということでした。
確かにお母さまが元気に動ける間は問題ありませんが、ご自身が要介護状態になったときには、A氏を在宅で見続けるのは難しくなってしまいます。
A氏の認知症も中核症状はかなり進んでおり、短期記憶も危うくなっていました。
幸いにも判断能力はまだ辛うじて感じられている状態でした。
お母さまの了承のもと地域包括支援センターと情報を共有しつつ、成年後見人の選定を先にしておくことにし、弁護士の紹介を受けてもらいました。
※成年後見制度とは: 認知症・知的障がい、精神障がいなどの理由で一人で決めることが心配な方々は、財産管理や身上保護などの法律行為をひとりで行うのが難しい場合があります。このような方々を法的に保護し、支援するのが成年後見制度です。
施設選びの条件洗い出しと施設の見学の重要性
次にお母さまの希望は、息子さんが早い段階で施設へ入居して平穏に過ごしてもらいたい、ということでした。
自分は自分の年金でなんとかするので、A氏はA氏の預貯金と年金でやってもらいたい。
家を息子さんに相続したあとは、売却して施設への支払いに充ててもらいたいという内容でした。
それでもご予算が足りるかわからないため、ご予算はできるだけ抑えるということも前提条件として入りました。
自分で動けるうちは面会にも行きやすいところが良いと仰っておりましたが、ご希望を全てかなえる施設はありませんでした。
そこで、往復タクシーで無理なく行ける距離に老人ホームがあったのでその施設をご提案いたしました。
入居施設の選択を行っている間、A氏から一つだけ希望が出ました。
それは、今行っているデイサービスを使い続けたい、ということでした。
これまで息子さんのお話をしても自分ごとと捉えておらず話半分でしたが、ここでようやく自分のことだと認識したA氏からのたった一つの条件でした。
A氏は老人ホーム入居に否定的ではなく、今行っているデイサービスに行くことができるなら老人ホーム入居は構わないというご意見でした。
ご提案しようとしていた施設では、今までのデイサービスへ通うことが難しかったので、再度ピックアップし直してご提案することとなりました。
A氏本人の身体状況に合わせて段階的・計画的に住み替えが出来る事も検討事項にいれることにしました。
入居する老人ホームによっては、サービスの囲い込みをするところもありますし、身体状況によって住み続けることが出来なくなる施設もあります。
今後20年以上は続くであろうA氏の老人ホーム生活ですから、A氏のご意志を最大限尊重し、その後状況が変化しこれまでの生活が難しくなったらその時にまた考えよう、それがお母さまの最終判断となりました。
もしかするとその時にお母さまはもういないかもしれません。
その為の成年後見人でもあります。
その事をお伝えし成年後見人となる弁護士さんとご契約をしました。
※施設によるサービスの囲い込み: 入居者に対し、デイサービスや訪問介護など併設事業所の介護サービスのみを使わせ、過剰な介護や介護費用の拡大につながりやすいことを表現した意
A氏のご利用しているデイサービスの送迎範囲内で、囲い込みをしていないサービス付き高齢者向け住宅または、デイサービスの併設がない住宅型有料老人ホームということを条件に施設選びを行ったところ該当する施設が見つかりましたのですぐにご提案いたしました。
かなりの条件があった為、数ある施設から選べるほどのピックアップはできませんでしたが、なんとか条件に合致する施設をご提案できましたので、A氏とお母さまと見学に行く段取りを取りました。
見学に行ったところ、お母さまとしては施設の経年劣化が気になったようですが経験上、男性の利用者さまは女性の利用者さんと比べて自分の居場所に対して、外観はあまり気にならないものです。
男性の利用者さまは外観よりそこで働く従業員さんとの相性を重視するケースが多いです。
こうしたポイントに気を留めながら見学しているご様子を観察していましたが、少なくとも施設長や介護リーダーとの相性は問題ないと判断できました。
見学する方の人柄や考え方はその後の生活に大きく影響してきますし、介護スタッフさんの態度にも影響してきます。
ご本人さまにとっての居心地の良さが重要なポイントになるため、見学を行う際はこうした視点で相性を見ていきます。
見学後、A氏、お母さまにてお話し合いをされ、見学した施設へのご入居を決断されました。
用賀の老人ホームへのご入居と伝えたいこと
諸々の手続きが終わり入居したA氏ですが、1か月もすると老人ホームの生活にも慣れ、これまでのデイサービスにも毎回楽しみに通われていることをご報告いただきました。
母も子が元気で暮らせることが普通ではなくなる日というのは、突然やってきたりするものです。
今回、A氏は若年生認知症によりお母さまよりも先に介護が必要になりました。
似たようなケースでは、神経系の難病を患い介護を必要とするケース、脳梗塞の後遺症や事故などにより半身不随となり介護を必要とするケースもあります。
ご高齢となった親が要介護の子を見続けることもいずれ限界が来ます。
時には親子で老人ホームに入る選択をするケースもあります。
困り果てて身動きが取れなくなる前に誰かに相談をして貰えればと思います。