※相談事例は全てご相談者さまの了承を得て記事化しております。
老人ホームの住み替え相談(転居相談)
今いる老人ホームにこれ以上お願いする事はできないので転居先を探してほしいとのご相談が入りました。
お問合せいただいたのは大田区の久が原にお住いのご家族さまからでした。
オンラインでのヒアリングをご希望でしたので予定日を決めてオンラインヒアリングを行いました。
当日は娘さまとご主人さまの2名が参加されました。
現在、82歳になるお母さまはある老人ホームに半年ほど暮らしていますが、これ以上今の老人ホームにお願いしたくないので早急に別の老人ホームを探してほしいという依頼でした。
一体何があったのでしょうか。
まずは、老人ホームに入居した経緯をヒアリングしました。
お母さまは統合失調症を発症しお薬を飲んでいましたが独居のリスクが高くなってきたこと、短期記憶の維持が難しくなってきたことなどからこれ以上、独居生活を続けるのは危険だと判断し、親族で相談をして老人ホームに入居することになりました。
また、老人ホーム入居については担当のケアマネの意見もあったそうです。
ご家族で色々な施設に見学に行き、時にはお母さまも一緒に見学に行かれていました。
お母さまが一番気に入っていると思われた施設にお願いすることになったのが半年ほど前の事でした。
施設形態は介護付き有料老人ホームで看取りまで考えての入居でした。
1週間のショートステイで施設側のアセスメントがある程度できあがり本入居で契約を締結しましたが、本入居から1週間ほど経過して激しい帰宅願望が出てきたとのことでした。
激しすぎる帰宅願望
入居当初こそ楽しんでいたお母さまですが本入居が始まり1週間ほどすると、娘さまに毎日のように電話をかけるようになっていました。
お母さまは短期記憶の維持が難しいだけで身体的には自立でしたのでスマートフォンの持ち込みについては許可されていました。
最初こそ丁寧に話を聞いていた娘さまですが、時間に関係なく毎日電話がかかってきては、家に帰してほしい、と懇願するお母さまに疲れてしまったそうです。
どのように接すればよいかなどを施設長に相談をされたそうです。
すると、施設長から帰宅願望について以下の説明を受けたそうです。
施設長「これまでの生活から集団生活に切り替わるとどうしても帰宅願望が強くなります。施設としてもできるだけ帰宅願望を和らげるようにスタッフが対応しておりますが、ご入居当初に頻繁に面会に来られてしまうと帰宅願望が長期化することがあります。
もし可能であれば面会は少し控えていただくことは可能でしょうか。」
とのことでした。一理あると思い面会を控えるようにしましたが電話は毎日かかってきます。
そこで施設長に改めて相談をすると、
施設長「電話をかければ面会に来てもらえると思ってしまうと電話をかけ続けることになってしまいます。言いづらいのですが電話が鳴っても出ないという選択も検討してもらえますでしょうか。」
ということでした。これまで老人ホームを利用したことが無い娘さまですが、施設長は親身に話をしてくれますし、施設の対応にも不満はありません。
介護の専門家がいうのであればそれに従うのが良いだろう、ということでかかってきた電話にも出ないようにしていました。
1か月ほど経過したころに面会の予約を入れてお母さまに会いに行くと、当初よりはいくぶん落ち着いているように思えたそうです。
ただ、お母さまから、
「外に出たくても出られない。まるで牢獄だ。お願いだからここから出してよ。」
と言われ心が痛かったそうです。
しかし、お母さまは短期記憶が維持できないため独居生活に戻るにはリスクがありすぎます。
帰り際に施設長に相談をすると、
施設長「お一人で散歩や買い物に行きたいと仰ることはありますが、お一人での外出は安全を保障できないため施設としては許可できません。もう少しすると帰宅願望も小さくなってくると思います。」
との回答でした。
時間の経過で帰宅願望が小さくなると言われた娘さまですがご自身でも色々と調べられたそうです。
インターネットで調べてみると、老人ホームでの帰宅願望の対処法が書かれたサイトがいくつもあることを知り読まれたそうです。
ただ、書かれていることを実践しても効果的ではなかったそうです。
ちなみに娘さまが読まれた対処法にはこのようなことが書かれていたそうです。
・施設内で興味のあるものを見つける
・自宅のような環境にする
・施設内で居場所をつくる
・本人の発言を否定しない
書いてあることは間違っていません。
しかし、元介護士の私からすると、どれも理想論だなと思いました。
私が施設で介護スタッフをしていた時の経験を申し上げます。
・施設内で興味のあるものを見つける
>脳トレやトランプ、携帯ゲームなど興味の対象を作っても一時的であり、帰宅願望の解消には至らないです。例えば、脳トレなどはその場は楽しまれることはあっても夕方になると帰宅願望が出てしまうため抜本的な帰宅願望の対処法にはなりません。
・自宅のような環境にする
>独居や同居の時に使っていた家具や化粧品などをそろえたとしても帰宅願望の解消にはなりません。むしろ、帰宅願望が強くなるケースにも遭遇しました。
・施設内で居場所をつくる
>趣味のお花や手芸などを他の入居者さまに教えることで役割を作る、などの記事がありますがこれも施設の運営者側からするとリスクが伴うためあまり現実的ではありません。
ご入居者さまが他のご入居者さまに何かをすることで事故が発生すると責任問題になるからです。
入居者さまが率先して、他の入居者さまとお料理を作るレクリエーションなどを大々的に宣伝する施設などもありますが、参加者は自立している入居者だけであるはずです。
施設としては、ご入居者さま同士のコミュニケーションは推奨しますが、火やハサミなどリスクが伴うような道具を使うようなコミュニケーションはリスクが大きく、ご入居者さまに決定権を持たせるような役割をお願いすることはしません。
・本人の発言を否定しない
>「帰りたい」という本人の希望に対して「うん、それじゃ帰ろう」と言えるわけはありません。すると、否定をしない発言というものは論点がズレた回答になりがちです。
論点がズレた発言をするとご入居者さまはかえって不安になり、よりストレートな質問をしてきます。
例えば、
ご入居者さま「今日、帰りたいから連れて帰ってちょうだいね」
ご家族さま「うん、そうだね。でも今日はもう夜だから危ないから太陽が出てるときにしようよ」
ご入居者さま「それじゃ今日は帰れないんだね。なんで帰れないの?」
ご家族さま「夜になってしまったからって言ったでしょ。今度、明るい時に帰ろうよ」
ご入居者さま「なんで夜になったら帰れないの?アナタが一緒なら安心だよ一緒に帰ろうよ。」
ご家族さま「うん、でも今日はちょっと」
こんな感じになります。
軽認知であれば会話の主旨は理解できます。結局帰れないとわかると泣いてしまったり、落ち込んでしまうものです。
娘さまも同じような経験をされていました。
今回のケースで言えばお母さまは短期記憶が続かないのであり受け答えや状況についてはしっかりと理解できています。
そんな時にあることがおこり娘さまは施設に対して不信感を持たれたそうです。
事前報告が無いままスマホが施設預かりになった
帰宅願望は変わらず強かったお母さまですがある時から娘さまに一切、電話をしなくなったのです。
最初こそ電話がかからなくなり負担が減ったことを喜んでいた娘さまですが、なぜ突然お母さまが電話をしなくなったのか気になりました。
そこで面会に行きそのことをお母さまに尋ねられたそうです。
するとお母さまは、
お母さま「電話ないんだよ。なくなっちゃったんだよ。だからお前にも電話できなくて困ってたんだ。ねぇもう本当に家に帰しておくれよ。私はもうここには居たくないんだよ。」
電話が無くなることについて不信感を持った娘さまは施設長にその旨を質問しました。
すると、お母さまが他のご入居者さまに電話を貸してしまい他のご入居者さまがご家族に電話するといった事態が頻発してしまったため、やむなく電話をお預かりしたことが分かったのです。
入居している施設はスマホの持ち込みは可能ですが、居室での利用に限られていました。
しかし、お母さまは居室以外の場所でスマホで電話をかけていたためルール違反として施設預かりになっていたのです。
そして、娘さまにスマホを持ち帰っていただきたい、と言われたそうです。
確かに時間に関係なく電話をかけてくることについて困っていた娘さまではありますが、お母さまと電話することでコミュニケーションが取れる事、施設での生活がどんなものかがわかるためスマホの利用が禁止されることは避けたい思いがありました。
施設長に電話連絡は継続してもらいたいとお願いをしたところ、スタッフ介入のもとであればお試しで使用許可を出せるということでした。
娘さまはその条件でお願いすることにされたそうです。
しかし、それ以降も電話は一切ならなかったので1週間ほどしてまた面会に行きお母さまに状況を訊いてみると以下のような回答だったそうです。
お母さま「電話かけたいと言っても充電してるからっていつも言われるんだよ。わたしは機械の難しいことは分からないから言うとおりにしてるけどお前に電話できないんだよ。おねがいだから家に帰しておくれよ。」
娘さまが再度施設長に確認をすると、お母さまから電話をかけたいと言われたことはない、との回答でした。
その発言を聞いて娘さまは今いる老人ホームに不信感を持たれたそうです。
確かに、お母さまは短期記憶が続かないのですが理解・判断能力に障害があるわけではありません。
お母さまが言っていることが本当の事だと確信し、これ以上今の施設にお願いすることは出来ないと判断し、当社の無料相談にお問合せをされたのです。
久が原の介護付き有料老人ホームを探す
娘さまからのヒアリングが終わり、入居条件をお伺いしました。
この件についてはご家族さまから公開しないでほしいというご依頼がありましたので詳細については伏せておきますが介護付き有料老人ホームで今と同じような条件の施設ということでした。
5施設程のリストが完成し各施設のご説明をすると2施設について見学依頼をいただきました。
見学には娘さまとご主人と相談員である私の3人で行きました。
今回の件で大切なことは携帯電話の持ち込みに関して寛容な施設であること、連絡義務をしっかりと把握して実行している施設を選ぶことにありました。
※現状、ほとんどの老人ホームが携帯電話の持ち込みについて許可を出しています。
見学後にお話を伺うと、外側から見ていても分からないので2つの施設でショートステイを試したいという回答でした。
現状、施設に入居されているお母さまを合計2週間外泊とすることに施設側はかなり不信感を持っていました。
そこでしっかりとした計画書を作りご家族さまにご提案、なんとかショートステイの日程を組むことが出来ました。
2施設のショートステイが終わり、改めてご家族さまとヒアリングの時間を頂き結果を教えていただきました。
娘さまとご主人さまから2施設のうち、中規模の介護付き有料老人ホームへの転居を進めてほしいとの回答を頂きました。
決定の理由は以下です。
・お母さまと同じようなご入居者さまが多かった
・ショートステイ中にしっかりと連絡をしてきてくれた
・お母さまの帰宅願望がもう片方の施設よりも少なかった
・スタッフがしっかりしていると思えた
実はショートステイの際に、帰宅願望や変わったことがあったら連絡をしてほしいとお願いしていたのですが、選ばれなかった施設はショートステイ最終日にまとめて報告をしていました。
しかし転居を決めた施設はショートステイ中にあったことをその場で電話連絡してきていたのです。
マメなホウレンソウがご家族さまの信用を得たということです。
もちろん、ショートステイの間、お母さまは娘さまに電話をかけてきています。
その内容と施設側から報告される内容が同じであったことも施設決定の大きな理由となっていました。
施設が決まり、今いる施設と新しい施設に対してそれぞれ手続きを行い無事に転居することが出来ました。
現在、お母さまの帰宅願望は夕方になると強く出ることがあるそうですが、以前ほど悲痛感があるような電話ではないということでした。
ご報告を受けて今回のケースを終了といたしました。
老人ホーム選びで気を付けるべきこと
今回は転居についての記事となりましたが昨今、いまいる老人ホームが信用できないので転居先を探してほしいというご相談は増えてきております。
入居してからいろいろなことが分かってきた結果、施設を信用することが出来なくなってしまい転居を決意されるご家族さまは年々増えています。
介護現場で起きている様々な事件などがニュースになることで介護施設に対する信頼が薄らいできてしまったことが理由の一つだと思っています。
そのような事件が発生するたびに介護に対して世間の目は厳しくなるものです。
今回の件で言えば、施設側が事前相談をせずにスマホを施設預かりにしてしまったことが転居の大きな原因です。
通常このようなことはありません。
お母さまのスマホが施設ルールに違反している場合、まず施設は保証人さまに状況を説明、対策についての連絡をします。
事故報告などは事後報告になりますが、今回のケースでは事前に保証人連絡が出来ます。
それをしなかったのは施設側のミスと言わざるを得ません。
過去に施設で働いた経験からすると、恒常的な人手不足により欠けシフトが続いており、ご家族さまへの連絡が遅れてしまったのではないかと仮定します。
※欠けシフトとは? 必要な人員が足りていない状態で介護現場を回すこと。
居室担当者が経験が浅くこうした事態に慣れていなかった可能性もありますが、担当者だけで施設預かりを決定をすることはありません。
施設長に相談し了承を得ることが常です。
仮に施設長が担当者の意見をそのまま取り入れたとしてもやはり事前連絡は必須です。
介護に限らずサービスには相互の信頼関係が必要です。信頼関係が崩れてしまえば施設転居という大きな決断になるのは当たり前です。
当社で取り扱いをした経緯がある老人ホームの転居相談は他にもあります。
次回は、入浴介助について不信感を持ったご家族さまからのケースをご紹介いたします。
当社の無料相談をセカンドオピニオンとしてご利用される方もいらっしゃいます。
今いる施設の対応について疑問がある方は以下の無料相談よりお気軽にご相談ください。
尚、ご相談について費用が発生することはございません。
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