※相談事例は全てご相談者さまの了承を得て記事化しております。
3世代が暮らす場で楽しく過ごしたかった
「住み慣れた自宅でいつまでも暮らしたい」
「家族みんなで仲良く暮らしたい」
誰しもそのように思うのではないでしょうか?
しかし、ほんの些細な一言がきっかけで良好だった関係が簡単に壊れてしまうこともあります。
私たちは様々な悩みや課題を抱えたご家族の相談に乗っていますが、
「こんなことで?」
と思う事がよくあります。
ご家族に対する強い思いや固定観念、良かれと思ってとった行動、その全てが裏目に出てしまう危うさを私たちは知っています。
老後は子供たちが面倒を見てくれる。そう思っている親御さまは多いのではないでしょうか?
私たちも常にそう願っていますが事実は必ずしもそうではありません。
ご家族さまがみな同じ気持ちかといえば、違うことが多いです。
これまで自分を育ててきてくれた親の面倒は子供が看る、そのような時代はもはや前時代的になってしまったのかもしれません。
今の世の中では、皆さまご自分の生活を守る事で精一杯なのです。
横浜市にお住まいのAさん(80歳男性)は、15年前に奥さまをご病気で亡くして以来、広いご自宅に一人で暮らしていました。
70歳でお仕事を引退されてからは、たまに遊びに来てくれるお孫さんと遊ぶのが楽しみでした。
ご自宅を建て替えて息子夫婦とお孫さんと暮らすことを夢見るようになっていました。
一人暮らしの寂しさもあり、息子夫婦に同居を提案します。
茅ヶ崎市から都内へ通勤する息子としては職場に近くなるし、お孫さんも中学に上がる年齢でもあることから全ての利害が一致していることから、息子夫婦も同居の話に乗りました。
新築の家を建てることになりご家族みんなが揃って間取りの話などをされました。
その時が一番楽しかったそうです。
一緒に暮らせる家を建ててあげれば、自分の老後の面倒も自動的に見てもらえるだろうという期待もあり間取りにはあまり口出しはせずにお嫁さん主導で住宅の話は進んでいきました。
新しくなった家も無事に引き渡され、引っ越しも終わりました。
Aさんは安堵と幸福感に包まれていましたが、それも長くは続かなかったそうです。
お嫁さんは専業主婦だったので、最初こそ気を遣ってお茶を淹れてくれたりもしましたが、お茶を淹れてくれることもだんだんと無くなっていきました。
お孫さんも好きなテレビが見れないからとリビングではなく子供部屋へ戻ってしまいます。
Aさんはご自宅なのにリビングでくつろげないどころか疎外感を感じるようになり、自室に籠る事が多くなってしまいました。
ある時、狭く薄暗い自室に籠ってばかりいてもいけないと思い、たまには散歩に出てみることにしました。
その途中、Aさんは転んで大腿部骨折の重傷を負い3ヶ月の入院となってしまいました。
この年で転倒骨折はよくある話ですが同時にADLが大幅に落ちてしまうのもよくある話なのです。
Aんも退院時には車椅子が必要な状態になってしまいました。
しかし、車椅子のままではご自宅に戻れません。
自室もリビングも2階にあったのです。
すぐにでもご自宅に帰りたい気持ちが強かったAさんですが、お嫁さんから、
「自宅で暮らすにはもう少しリハビリをしてからの方が安心」
と諭され老健へ行くことになります。 ※老健:老人健康保険施設の略称。リハビリ目的の中期入所施設。明確な期限があるわけではないが3か月、長くても6か月で退所するのが一般的。
老人保健施設はリハビリを目的とした施設です。
ここで数ヶ月リハビリを頑張れば帰れると思っていたAさんの期待はまた裏切られることになってしまいました。
再びお嫁さんから、
「介護のことは介護のプロに任せるのが一番、それがお義父さんにとってもいいことだと思う」
と言われ、老人ホームに入居することになってしまったのです。
間違っていただきたくはないので少し補足をいたしますが、息子夫婦には決して悪気があったわけではありません。
しかし、Aさんの思いや期待と息子夫婦の意見はすれ違ってしまっていたのです。
こうした親と子の意見がすれ違ってしまうケースはご相談を受けていて本当によくあることでもあるのです。
横浜市の老人ホーム入居、距離感が家族関係を修復
義嫁さんの意見を尊重したAさんは老人ホームへの入居に同意しました。
それから老人ホーム選びがスタートしました。
しばらくしてAさんはそれなりに気に入った老人ホームが見つかったこともあり、しぶしぶながらご入居しました。
しかしそこで大きな変化がありました。
ご入居当初はあまり乗り気ではなかったAさんですが、ご入居からしばらく経ちお友達もできてくると、元気を取り戻したのです。
周りのご入居者との関係が良好であったことが一番の理由ですが、家での居づらさもなくなり過ごしやすい環境を手にしたのです。
良いことも悪いことも回り始めることで連鎖します。
Aさんが施設で元気になるのと合わせるように、なんとなく気まずくなっていた息子夫婦とも適度な距離感で良好な関係を取り戻したのです。
Aさんは息子夫婦に新築をプレゼントしたようなものですから、毎月の面会や外食に連れて行ってもらうことは小さな報酬だ、として楽しんでいます。
二世帯住居、三世帯住居などを建ててご家族が同居する流れは今に始まったことではありません。
しかしすべてが期待していたような状況になることはまずありません。
特に首都圏や首都圏近郊など核家族化が進んでいる地域では、皆さんがそれぞれの思惑を持たれていることが多く、集団生活に対してアレルギーを感じることが多いように思います。
Aさんの件ではご家族みんなで過ごす三世帯住宅での同居という集団生活よりも、年齢の近い他人同士が一緒に暮らす老人ホームでの生活のほうが合っていたのです。
老人ホームは在宅介護が限界だから選ばれるという選択肢が無いとは言いませんがネガティブなことではないのです。
核家族化が進行しご自身の生活を楽しみたいと思っているのは若い世代だけではないのです。
高齢になられた方も同じようにご自身の生活を楽しみたいと思われているのです。
以前もブログで書きましたが日本では未だに老人ホームに入ることはネガティブだという意識を持っている方がいらっしゃることも理解しています。
しかし時代は常に変わっているのです。
ご自身が心地よく暮らせ、その方らしい生活が出来ることが一番の幸せなのです。
老人ホームは「その方らしさ」を実現するための選択肢としてポジティブな存在になっているのです。
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