※相談事例は全てご相談者さまの了承を得て記事化しております。
転倒が頻回するお母さまのケア方針
あるご家族さまから母が入居している施設から他の施設に住み替えを検討しているので施設探しをお願いしたい、というご相談をいただきました。
お母さまはある老人ホームにご入居されています。
アルツハイマー型認知症を発症しており立ち上がりによる転倒が頻回していました。
また、最近では意思疎通も難しくなってきており、ご自身のやりたいことを介護職員にうまく伝えることが出来なくなっています。
ご入居当初は杖歩行でしたが転倒が頻回するようになり、施設側から車いすで日中お過ごしするようなケアに方針変更したいと言われ了承しています。
しかし、夜間のトイレ排泄後に起き出しが頻回し、居室内転倒になってしまう事故が繰り返し発生していました。
施設側から転倒対策としてお薬を追加したいと言われこれも了承しました。
お薬の効果はてきめんでお母さまの転倒事故は減りました。
しかし、娘さまにはある疑問が浮かんでいました。
面会でわかったお母さまの変化
娘さまは月に1回程度、施設に面会に行かれています。
娘さまは、お母さまが車いすで面会室に来られ、その場で立ち上がろうとする行為を何度も経験されていました。
お母さまは足腰が不安定になっているため、数歩歩くと転倒してしまいます。
受け身を取ることが出来ないため頭から転倒したことが何度もありました。
娘さまが立ち上がろうとするお母さまの肩をそっとさわると、ご自身の意思で座っていました。
お母さまは娘さまが肩に手をかけると笑顔で座られたそうです。
言葉ではなく仕草でコミュニケーションが取れていることの表れです。
ところがお薬が追加されてから様子が一変してしまいました。
お薬追加が決まった直後に面会に行くとお母さまはウトウトしており心ここにあらずという感じでした。
話しかけても目線が娘さまに向きますが笑顔になるだけで言葉を発するようなことはありません。
大好きなお饅頭を一緒に食べようと誘っても娘さまの言葉が理解できているのか分からずぼーっとしていたそうです。
お饅頭を手に渡しても食べる様子はなく、ただ笑顔でお饅頭を見つめるだけになってしまいました。
明らかにお母さまの様子が変わってしまったため、娘さまは施設長にどんなお薬を追加したのか改めて確認をされたそうです。
すると施設長と看護師が同席し追加されたお薬について説明がなされました。
お母さまは立ち上がりが頻回するということで向精神薬を追加されていました。
追加当初はそれほど強い薬ではなかったのですが、立ち上がりを抑えることが出来なかったので段階的に強い薬になっていることが説明されました。
お医者さまと連携しているので安心してください、と説明を受けるも娘さまは納得が出来なかったそうです。
在宅ケア時に立ち上がり→転倒が多く怪我の心配があるため老人ホーム入居に踏み切った娘さまですが、施設にはできるだけ自由に振る舞いをさせてほしいと伝えてありました。
在宅の時でも転倒はよくあることだったので施設で転倒事故についての連絡が来ても、ご面倒をかけますが前にもお話した通り、転倒は母の自由との引き換えだと思っているので引き続き母の好きにさせてあげてください、と伝えていました。
ところがお薬が追加されてからのお母さまはいつ面会に行っても眠そうでした。
施設長にお薬を少なくするか、中止してもらいたいとお話をされたそうです。
すると施設長は、お薬を中止してしまうとお母さまが頻繁に立ち上がってしまい転倒の危険性が高まるのでご理解いただきたい、と説明されたそうです。
入居当初にお願いした「母の自由」はどこに行ってしまったのだろう?と娘さまは思われたそうです。
転倒は見守りなどでなんとか対処できます、と説明を受けていたのですがいつのまにか対応が変わってしまったと感じられたそうです。
どこの施設も一緒ですか?
娘さまからお話を伺いました。
娘さまはご説明後に、
娘さま「どこの施設でも同じような対応になるのでしょうか。これでは母が可哀そうな気がします。」
と、仰りました。
結論から申し上げます。
そんなことはありません。
施設の運営方針によると考えます。
介護保険法の理念は「高齢者の自立支援」です。
かんたんにいうと、介護職員は要介護者が自分のできることに応じて自立した生活が出来るように支援すること、という考え方です。
つまり、お母さまが立ち上がりたいのでれば介護士は立ち上がりをサポートしお母さまがやりたいことを支援することが自立支援の考え方です。
お母さまは認知症を発症しているため意思疎通は難しいですが、立ち上がってトイレに行きたいと思えたのであれば介護職員は歩行介助でお母さまの行動のトイレサポートをするのが自立支援型ケアです。
しかし理想と現実は異なります。
これが問題です。
転倒が頻回しているご入居者さま1人のために1人の見守りを追加するだけの余裕がある老人ホームはほとんどありません。
どこも人材不足でなんとかシフトを回しているのが実情です。
そうなるとどのような弊害が生じるのでしょうか。
一般的には、ご入居者さまの日常をできるだけ施設管理できるようにするようになります。
老人ホームを見学された方ならわかると思いますが、徘徊や立ち上がりが頻回する認知症のご入居者さまが一か所に集められているのは少ない人員で安全を確保するためです。
致し方がない面もあるため管理を否定することは今の介護ではできないです。
しかし、施設管理をやりすぎる弊害もあります。
例えば、意思表示が出来るご入居者さまがご本人の意思でトイレに行きたいときにトイレ誘導(本人本位のケア)するのではなく、定時排泄(介護士本位のケア)に切り替えてしまうなどです。
ご本人の意思とは関係なくトイレに誘導することは施設側にとっては業務効率を上げる効果があります。
※以前このことが原因で転居された相談事例があります。詳しくは「失禁が増えた理由は施設都合のケアだった!老人ホーム転居相談」にてご確認願います。
また、転倒が頻回するご入居者さまについては日中できるだけ臥床していただくようにすることもあります(臥床とはベッドなどで寝る意)。
居室で寝ていただくことで転倒を防ぐというケア方針です。
昼夜逆転する可能性が高まりますので夕食時や眠前に睡眠薬が追加されることにもつながりかねません。
どのような施設もこれが現代介護の基礎理念である「自立支援」に沿っていないことは理解しています。
しかし、限りある介護職員数でご入居者さまの安全を守るためには仕方がないことだ、と妥協しながら運営を続けています。
残念ながら他業種と比較し100万円以上も年収が低いにも関わらず、たくさんの仕事をしなければならない介護職員の数は減っています。
以前は子育てが終わった介護士が復帰するなど一定数の出戻りも期待できましたが他業種の給与が上がった結果、出戻るより他の業種でパートをするほうが給料が良くなり、出戻り率も低くなってしまいました。
いわゆる介護士不足問題ですが、現場を経験してきた私からすると今の介護業界はもはや「介護士限界」をとうに超えていると感じます。
そのため背に腹は代えられないところまで来ている施設が介護士本位のケアに移行せざるを得ない実情があることも事実です。
ただ、そのような現状であっても自立支援をなんとか実現しようとシフトやケア構成を工夫するなどしている施設はあります。
娘さまにはまずこの点をご説明いたしました。
すると娘さまから、住み替え先の老人ホーム探しを手伝ってほしいとご依頼をいただきました。
お母さまの自由を最大限考慮してくれる施設探し
今回の記事で誤解していただきたくないのは、全ての施設が投薬により施設管理しやすい状況を作っているわけではない点です。
大事なことは「施設のケア方針」です。
お母さまが立ち上がりが頻回するとしても見守りルールを変更することで、投薬依存せずに転倒リスクを減らすような工夫をしている施設を探すことが大切なのです。
これには施設の現状などもありますから調査段階である程度、施設に説明をする必要がありました。
施設探しの前にお母さまのADLと娘さまのご意向を伺いました。
【お母さま:83歳】
食事:普通食(通常食)
歩行:車いす
排泄:全部介助
更衣:一部介助
義歯:上義歯
認知症:アリ
介護度:要介護3
※意思疎通は難しい
娘さまのご希望
・薬はできるだけ使いたくない
・転倒しても良いので母の自由を優先してほしい
お母さまのADLと娘さまのご希望を提案予定の施設に対してどこまで対応できるか確認する必要がありました。
娘さまがお住いの野沢は世田谷区で老人ホームがたくさんあるエリアでもあります。
丁寧に探していくことで娘さまのご希望に沿える施設を探していきました。
残念ながら、いくつかのホームでは、やんわりと受入拒否となってしまいました。
その理由を以下にまとめておきます。
・お母さまの現状で投薬ナシでお預かりすることはリスクが高く難しい。
・転倒が頻回することがわかっていて歩行の自由を了承しろというのであれば受入れはできない。
・投薬量を相談しながらであればお預かりできるがそれで保証人さまが満足するとは思えない。結果的に今の施設と同じ対策となるリスクがある以上お預かりは控えたい。
・他のご入居者さまと同じであれば受入れできるが、一人だけ特別扱いというのであれば受入れはできない。
理由は様々ですが、施設管理が難しいので受入拒否というのが本音でしょう。
それもまた施設の方針ですから仕方ありません。
ただ、その中にあっていくつかの施設から受入可能との回答を頂けました。
リストをまとめて娘さまにご提案しました。
見学で見えたこと
娘さまに事前調査のお話なども踏まえてご説明したところ、リストの中から取り急ぎ1つの施設について見学依頼を頂くことが出来ました。
見学で満足が行かなければ次点の施設を見学したいということでした。
見学依頼を取り付けました。
ちなみに今お母さまが入居している施設は、ケアマネジャーから紹介された紹介会社が勧めてきた施設でした。
見学はしてましたが、何を見るなどを知らないまま言われるがままに決めてしまっていました。
今回は見学前に、見学のアドバイスとしていくつか見るべきポイントをご説明いたしました。
※詳しくは「施設見学でみるべきこと」をご参照願います。尚、こちらの記事でかかれていることは基本的なことです。ご入居相談を頂いた場合の見学ではより専門性が高いアドバイスを行っています。
見学が終了した後、娘さまに見学の感想を頂きました。
娘さまは今の施設との違いを中心に見学をされていました。
また、介護職員がご入居者さまとどのように接しているかをよく見られていました。
ご入居者さまの居室に入ることはできませんが共有スペースでテレビなどを楽しまれている車いす、認知症のご入居者さまに対して介護職員がどのような接遇をしているかをチェックされていました。
見学から数日後、娘さまからお電話を頂きました。
次点の施設見学をしたいということでした。
早速、見学依頼書を出し見学日を確定します。
2つ目の施設見学が終了した後、娘さまから見学の感想を伺っている時のことです。
娘さま「2つの施設を見学しましたがどちらもヘルパーさんの対応が素晴らしいと思いました。特に今日の施設ではヘルパーさんが認知症の利用者さんに対してそばによって丁寧にあいさつをしていました。」
娘さま「お薬を飲んでいる人の様子は見てわかるようになりました。今日の施設の認知症の方はみなさんお薬は飲んでないか、量が少ないと思えました。ここなら安心できます。」
ちなみになぜそのようなことが分かるのか質問をしてみました。すると、
娘さま「今の施設で一か所に集められてる利用者さんはみなさん眠そうだったり寝ているんです。だから元気が良い人が一人もいないんです。それってみなさん何かしらのお薬を飲んでるんだと思います。多分そうです。」
一概にそうとは言えないのですが娘さまのご意見も一理あります。
元介護現場で働いていた経験から、強すぎる帰宅願望や、転倒リスクが強いご入居者さまが立ち上がりが頻回する場合などは投薬が検討されます。
また暴力、暴言などが強くなる場合などにも向精神薬が投与されることがあります。
※必ずしも投薬調整をするという意味ではありません。
このことは娘さまにもご説明いたしました。
住み替えの施設が決定する
2つ目の施設見学が終了してから2日後、娘さまから面会依頼を頂きました。
当社の渋谷相談室にて面会を行いました。
当日は娘さまとご主人さまが来られました。
その場で2つ目の施設への住み替え希望を頂きました。
ご主人さまから住み替え後の費用についていくつかご質問を頂きました。
お母さまの現状から以下は想定しておくべきであるとご説明いたしました。
・排泄介助でかかるオムツやリハビリパンツ、パッドの費用計算
・居室内で転倒が頻回する場合はポールの設置などが提案されることがあるのでそのレンタル費用計算
・寝返りが頻回するのであればベッドからの転落の危険性があるため低床ベッドなどの導入
・新しい施設での車いすレンタル料(購入する場合も含めて)
また、新しいご入居先でお母さまの自立支援をサポートするため以下についてもご提案しました。
・衣類はできるだけゆったりしているものを4組以上用意しておく
>お母さまは肌着と上衣についてはご自身で着ることが出来るため。
衣服は伸縮性の高いものが良く、肌着でピチピチなのはNG。
枚数は週2回の入浴だけではなく、汚れや失禁などの着替えを考慮しています。
・コートと帽子、マフラーを用意する
>冬場の散歩などでは暖かい服装が用意できないと散歩が無くなってしまう可能性があるからです。
・ボタンは少ないほうがよく、できるだけ大きなボタンの服を用意する
>ボタンが多いと更衣介助時間の都合で介護士がケアすることがあるため。
・介護用の靴を2組ほど用意する
>食べ物などで汚れてしまった時に交換できるから。
・お母さまが好きだった小物や写真などを用意する
>リラックス効果を生みます。とくに馴染みのコップなどがあれば用意。
・ラジカセとお気に入りのCDなど
>リラックス効果を生みます。また、寝つきの良さなどに影響します。
・お気に入りの化粧品など
>化粧水や乳液など好みがハッキリしているものは継続して使っていただくことでリラックス効果を生みます。口紅などもあれば可。
・お気に入りのカトラリーがあれば用意する
>馴染みのお箸や茶わんなどがあればご用意するほうが良いです。
※ただし施設確認は必要。怪我のものとになる瀬戸物はNGになることもあります。
※当社では、ご入居に際してあったほうが良いもの等をまとめたシートを作成しておりますが、ご相談者さまに併せて個別にも作成しています。
ご入居後の様子
ご入居後しばらくはお母さまの不穏が確認されていました。
新しい施設に移ったことで精神的にストレスが溜まっていたのだと思われます。
しかし、2週間ほどすると介護職員との間に関係値が出来てきたのかお母さまの不穏は小さくなってきたことが報告されました。
車いすからの立ち上がりについてですが、この施設には他にも立ち上がりが頻回するご入居者さまがおり共有部で常に見守りをしています。
そのため、お母さまも同じ共有スペースにご案内することでシフト構成を変更することなく立ち上がりに対する見守りが出来ていました。
見守りがトイレ誘導などで対応しなければならない時には別の介護職員が手を止めて見守りに回るという対応をおこなっていました。
つまり、ご入居者さまがご自身でトイレに行きたい時にもしっかりと対応できていることが分かります。
娘さまからは新しい施設になってからお母さまが喜怒哀楽をしっかりと表現できるようになったと喜びのお言葉を頂きました。
昼夜逆転しているため夕食後に睡眠導入剤の使用はありますが、生活リズムが戻ってくると投薬終了になると伝えられていました。
睡眠時間を元に戻すため日中は臥床せずに共有スペースで他のご入居者さまとお話をしたり、レクリエーションにも積極的に参加していただいているそうです。
入居前の施設側説明の通りにケアが行われていることが確認できましたので今回のケースをクローズとしました。
野沢で老人ホームをご検討の皆さまへ
今回の相談事例は住み替え(転居)に関するものですが、当社では老人ホームご入居に関して全般的に無料アドバイス、サポートを行っております。
在宅ケアが限界を迎えているので施設を探したい、といったご相談から、呼び寄せに関するご相談、老々介護についてどのように対応すればよいかといったアドバイスまで日々様々なご相談を頂いております。
当社の相談員は介護資格を持ち、介護現場で働いてきた経験者です。
老人ホームが抱えるジレンマを熟知し、理想と現実について実体験を持っているからこそ、ご相談者さまに対してどのような施設を提案すればよいかがわかると自負しております。
ご相談は以下の無料相談フォームまたはLINE相談により受付けております。
ご相談は担当制となりますので何度も同じ説明をする必要はありません。
お気軽にご相談いただければ幸いです。
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