※相談事例は全てご相談者さまの了承を得て記事化しております。
老々介護の限界
今年86歳になるご主人さまから当社の相談ダイヤルに電話をいただきました。
現在、世田谷区の三軒茶屋にお住いで奥さまと二人暮らしとのこと。
奥さまは4年前から認知症を発症しており訪問介護や訪問入浴サービスを使っていますが、ご主人さまによる介護もしんどくなってきたので夫婦二人で老人ホームに入りたいとのことでした。
ご主人さまは認知症はありませんが耳が遠くなってきており補聴器を使われております。また視力が落ちてきていしまい、お一人で歩くのもしんどくなっていました。
ヒアリング日時を決めて三軒茶屋のご自宅にお伺いいたしました。
そこでご主人さまと奥さまの現状についてヒアリングを行いました。
ご主人と奥さまの現状
ご主人さまは奥さまが認知症を発症してからつきっきりの在宅介護をしていました。
2年ほど前に奥さまが転倒し骨折してしまってからは自立歩行が難しくなってしまい、更衣介助、排泄介助はご主人が行っています。
食事についてはかろうじて奥さまご自身で召し上がることが出来る状態でした。
奥さまのADLをまとめました。
【奥さま:85歳】
食事:普通食(通常食)
歩行:車いす
排泄:全部介助
更衣:全部介助
義歯:ナシ
認知症:アリ(アルツハイマー型)
ヒアリングの際、ダイニングのすぐそばで奥さまもいらっしゃいましたので少しお話をさせていただきました。
認知症はかなり進行しており、私の問いかけに対しての返答はほとんどありませんでした。
お話されている内容もおそらくは息子さまの事ではないかと思われました。
ご主人さまのADLについてもまとめました。
【ご主人さま:86歳】
食事:普通食(通常食)
歩行:自立
排泄:自立
更衣:自立
義歯:ナシ
認知症:ナシ
※過去に白内障を患った経緯アリ
ご主人さまは白内障を患った経験があり、目は相当悪く新聞の活字は見えないそうです。
近所に買い物に行くときは勝手知ったる道のため問題ありませんが、見知らぬところだと地理感覚が無く、周りの様子もほとんど見えないので怖いということでした。
身体介護だけではない、認知症ケアの辛さ
この1年ほどは奥さまの認知症が進んでしまい、会話らしい会話は成立していませんでした。
訪問介護の介護士との会話がご主人さまの唯一の楽しみということでした。
車いす生活になってからご主人さまが排泄、更衣、時には入浴の介助なども行ってきましたが苦労はなかったそうです。
長年寄り添い支えてきてくれた妻だからこそ、恩返しをしているんだ、と仰っていました。
しかし、最近になり排泄介助時に奥さまが激高することが増えてきてしまったそうです。
それまではリハビリパンツの交換がおわると、
奥さま「ありがとう」
と、微笑んでくれた奥さまでしたが最近ではズボンを下ろそうとしたり、リハビリパンツを下ろそうとすると、
奥さま「やめろ!さわるな!おかあさーん」
と、大声をだすことが多くなってきたそうです。
認知症だから仕方がないとご自身に言い聞かせていたのですが、長年連れ添ってきた奥さまが自分のことを忘れてしまうことに哀しさを覚えたそうです。
そして、奥さまの身体介護に疲れてしまい、ご自身も施設に入ってゆっくりとしたいと施設入居を決意されました。
息子たちも自立して自分たちの生活を確立しているので、ご家族に迷惑をかけずにひっそりと旅立ちたいという想いも持たれていました。
また、言葉少なではありましたが、認知症が進行している奥さまを息子さまたちに見せたくないという想いも感じられました。
状況が確認できましたので具体的な老人ホーム探しの条件などをお伺いしました。
石神井公園のそばにある老人ホーム
ご主人さまからいただいた条件は以下となります。
◆必須条件
・練馬区の石神井公園近辺の施設
・一時入居金:非公開
月額利用費:非公開
・看取り対応
・介護付き有料老人ホーム
◆充分条件
・麻雀や将棋などのアクティビティがあれば尚可
なぜ、現在住まわれている三軒茶屋ではなく石神井公園なのか不思議に思いお伺いしました。
ご主人さま「いや、家内が生まれたのが石神井公園でね。もうその時の家は無いんだけど最期を迎えるなら家内の生家の近くがいいかなと思ってね。」
納得しました。今回、一時入居金や月額利用費についても条件は出ていたのですが記事には載せないでほしいということでしたので割愛いたします。
また、必須条件に介護付き有料老人ホームと施設指定がありました。
練馬区は人口が多いエリアで介護施設も多いので選択肢はたくさんあります。
あとは、業界的に評判の良い施設の選別と、充分条件を満たしている施設を見つけることが大切でした。
施設見学とアドバイス
幸いにも石神井公園の近くにある老人ホームで条件を満たしている施設が複数見つかりました。
その中から業界的に評判になっている施設や、人員配置基準をしっかりと満たしている施設などを選びました。
大手の老人ホームなどの場合、介護士が退職、転職してしまい一時的に人員配置基準を満たしておらずヘルプと呼ばれる他施設から介護士を借りて人員配置基準を満たすようなこともあります。
それ自体に文句を言うつもりはありません。
介護業界全体が人材不足で仕方がないないからです。
ただ、他施設から人材を借りることなくしっかりと人員が確保できている施設を選ぶことが入居相談員としての責務だと思っています。
ご主人さまに提案施設リストをお持ちし、説明すると2施設について見学依頼を頂くことが出来ました。
見学前にご主人さまに見学時のアドバイスを行いました。
目が悪いご主人さまに目視するようなアドバイスは難しいので主にコミュニケーションについてのアドバイスとなります。
詳しくは「施設見学でみるべきこと」を参照ください。
2施設の見学が終わり、ご自宅で見学についての感想を頂くお時間をもらいました。
ご主人さまの感想です。
◆悪いところ
A施設:「テレビのあるところにいた人たちはみんな認知症の人なのかな?認知症だと一か所にまとめられちゃうのかなって思いました。それはちょっと雑過ぎるような気がしますね。」
B施設:「敬語使ってないヘルパーさんと敬語のヘルパーさんがいるね。言葉遣いはちゃんとしてほしいね。」
◆良いところ
A施設:「若い人が多くて新鮮な感じだね。元気があるっていいね。力強い感じがするし安心して任せらるね。」
B施設:「ベテランみたいな人が指示出しして他のヘルパーさんがそれに従ってる感じだね。指揮命令系統がしっかりしてると思ったよ。」
ご主人さまから、どちらかの施設でお願いすると思うので少し時間をください、と回答がありました。
3日ほどして、ご主人さまから打ち合わせ依頼のお電話を頂きました。
そこで、入居希望の施設がわかりました。
ご入居を決めた理由
ご主人さまがご入居を希望されたのはA施設でした。
ご入居理由を頂きました。
・若いスタッフがそれぞれ自分たちの役割を認識して仕事をしていると感じたから
・接客をする仕事の現場として言葉遣いが敬語で統一されていたから
・入居者さまへの接し方がとても優しくて好感が持てたから
ご主人さまは商社で長年働き、退職前は人事部長でした。
人を見る専門家です。
入居理由のすべてが現場で働く人材についての評価というのも納得です。
私からのアドバイス等必要なかったのです。
ちなみにB施設がなぜ選ばれなかったのかについてもご意見を頂くことが出来ました。
・現場でベテランが指示を出すということは他のスタッフが経験不足もしくは誰もベテランに意見することが出来ないと感じたから。
・年配スタッフが入居者さまに対して対等語(いわゆるタメ語、友達言葉)で話しかけていた。
・浴室を見学したときに排泄臭がただよっていたから。
やはり人を見ていたことが分かります。
ベテランが現場で指示を出す行為から経験不足もしくはベテランが強すぎるという介護業界でよくある特定スタッフが強権を持ってしまう状況を感じ取っている点です。
これは見学時の参考としてとても役に立つと思いますので覚えておいていただければ幸いです。
見学時の感想で良かったところとしてベテランからの指示出しを挙げていましたが、ひっかけだったのです。
入居相談員である私自身も試されていたのかもしれません。
夫婦別部屋でのご提案
希望する施設についての回答を頂いたのち、ご入居方法について伺いました。
するとご主人さまは、
ご主人さま「夫婦部屋にするつもりです。たしか空きがありましたよね。」
と、仰いました。
私は、過去に介護士として現場で働いた経験からご夫婦で入居する場合、夫婦部屋ではなく別々の個室にするほうが良いことを知っていました。
特に在宅で老々介護になっているご夫婦の場合、夫婦部屋で入居した後に別部屋にしてください、というケースを何度も目撃していました。
長年付き添ったご夫婦が同じ施設に入居する場合は別部屋が鉄則だと思っています。
たいていの場足、奥さまが別部屋を希望されます。
今回、奥さまは認知症が進行しておりそのような発言をすることはありませんが、それでも別部屋が好ましいと思います。
夫婦部屋ではご主人さまがリラックスできないと感じたからです。
介護士が身体介護をすると言っても、好き勝手に部屋に入ることはありませんし、必要なければ居室訪問はしません。
奥さまとご主人さまが同じ部屋にいると在宅介護の時と同じ状況になってしまいます。
在宅介護がしんどくなり老人ホーム選びを始めたご主人さまの当初の思いが達成されない可能性があるからです。
説明を受けて、別部屋での契約となりました。
入居相談員は自説を強要することはありません。
しかし、夫婦で同じ施設に入居する場合の部屋割りについては過去の経験からトラブルを回避するための最適解は出ています。
ご入居時にご主人さまが言ったこと
面談、契約が滞りなく終わり、入居日になりました。
私は自分で携わってきたご相談者さまがご入居する日にはできる限り施設であいさつするようにしています。
入居される方の気持ちを感じるためです。
今回、ご主人さまと奥さま、さらには息子さまご家族さまがご入居当日に施設に来られました。
ご家族さまに挨拶をしてご主人さまに挨拶をします。
ご主人さまは私に言いました。
ご主人さま「今回はいろいろとお手間をかけてしまったね。無事にここまで来れました。ありがとう。もう少しだけど家内と頑張ってみるよ。」
深々とお辞儀をしました。
ご主人さまの言葉を聞いて、今回の件をクローズとしました。
ご夫婦で入居を検討している方へ
今回の相談事例のように最期はご夫婦で旅立ちたいと思われる皆さまからのご入居相談は増えています。
当社でもそのようなご相談者さまにたくさんの施設を紹介して参りました。
過去の経験則からご夫婦で同じ老人ホームにご入居する場合に注意すべきことも情報として蓄積されてきました。
今回のように夫婦別部屋にすること以外にも、タイミング等様々な注意点が存在します。
入居した後にトラブルになるリスクがあるのが夫婦での施設入居です。
介護現場で働いてきた元介護士だからわかることがあります。
当社の入居相談員は全員、介護資格を持っております。
介護業界について精通しているだけではなく、実体験からくる経験値を持っています。
その経験を交えながらアドバイスを行っております。
当社の無料相談はいかなる場合においても費用が発生することはございません。
お気軽にご相談いただければ幸いです。
Comments